「亡くなった父の遺産を相続したが、相続人の一人である母が認知症で重要な決定ができない」
このような悩みも、成年後見制度を活用すれば解決できます。この記事では、成年後見の手続きや、遺産分割協議などについて詳しくご説明します。
成年後見の手続き
遺産の相続権を持つ親が、認知症で遺産分割の話し合いができないからといって、親の意思を確認しないまま遺産分割を進めてしまうのは問題です。こうした状況になった場合は、成年後見人を選任し、判断力が低下した本人(被後見人)の代わりに遺産分割協議に参加してもらうようにしましょう。成年後見制度の手続きの流れは次の通りです。
【成年後見制度の手続きの流れ】
(1) 家庭裁判所への申し立て
申立書や戸籍謄本など、申し立て書類を揃えて、家庭裁判所に提出します。
(2)家庭裁判所の調査
申立人、本人、成年後見人候補者が家庭裁判所で事情を聞かれます
(3) 精神鑑定
(4) 審判
(5) 審判の告知・通知
(6) 法定後見の開始
遺産分割協議とは
相続人が複数人いる場合、誰がどのような遺産を相続するかを、相続人が集まり相談して決めること遺産分割協議といいます。
遺産分割協議を行う際は、二つのことに注意を払わなければいけません。
一つは、相続人全員が参加すること、そしてもう一つは、協議の結果を書類に残すことです。分割協議は、必ず相続人全員が参加して行わねばならず、一人でも欠けると無効になります。
また、協議の結果を書類としてまとめたものを「遺産分割協議書」といいます。遺産分割協議書を作成すれば、遺産分割の内容を明らかにして保存するとともに、後のトラブルを防ぐことができます
後見人が遺産分割協議に参加できない場合とは
成年後見人になった家族が、認知症の家族(被後見人)の代理人として遺産分割協議に参加できないので注意が必要です。
例えば、認知症の母のために、長男が母の後見人になったとします。父が亡くなり遺産分けを行うことになった時、母と長男はいずれも父の相続人同士ということになるので、長男は母の代理人として遺産分割協議に参加できません。その理由は、母の代理となった長男が母の遺産配分を自由にコントロールし、母の相続分を少なくする恐れがあるからです。
遺産相続人が複数人いる場合は第三者後見人を
このように、本人と後見人との間で利益が相反することになる遺産分割協議においては、後見人とは別に、家庭裁判所で特別代理人を選任する必要があります。
後見人や特別代理人は、認知症になった本人(被後見人)の財産を守る立場にあります。従って、遺産分割協議においては、裁判所の監督の元、「法定相続分」に相当する財産を本人(被後見人)のために確保することになります。
遺産相続人が一人ではなく複数人いる場合は親族ではなく、行政書士や弁護士、司法書士
などの専門家や第三者に後見人業務を依頼することも検討してはいかがでしょう。
また、遺産分割の話し合いが終了した後は、本人(被後見人)の財産管理や生活面のサポートを本人(被後見人)が亡くなるまで続けることも頭に置いておきましょう。
事例紹介
【事例1】
男性Aさんのケース。Aさんの父が亡くなり、父の財産の貯金と土地をAさんの母が相続した。Aさんの母は、Aさんに「自分が亡くなった後、お父さんの財産は全て息子であるAさんが相続するように」と言っていたが、その意思を書類等に記すことなく認知症になった。成年後見人を選任すれば、全ての財産を相続することができるのか知りたい。
回答
この場合は、成年後見人を選任しても、相続財産の全てを相続することはできません。全てを相続するには、お母さんの遺言を証明できる書類が必要です。
【事例2】
父が亡くなり、遺産相続の権利を持つ家族が集まって遺産分割協議をしたいのだが、母が認知症で判断能力が不十分なため、協議に加わることができない。
回答
家庭裁判所に申し立てをして、お母さんの代わりに遺産分割協議に参加する後見人を選任しましょう。後見人は誰でもなることができますが、最終的な選任は裁判所が判断します。
ただし、後見人に選ばれた人が遺産分割協議に加わる相続人の一人である場合は、お母さんの代わりに協議に参加できないので注意してください。
【事例3】
男性Bさん。亡くなった父の不動産を売却するため、司法書士に相談したが、「不動産の相続人の一人であるお母さんが認知症なので、土地の名義をBさんに変えることができない」と言われた。
回答
Bさんとお母さんの二人が土地の相続人。このような場合は、まずお母さんの代わりに法的手続きを行うことができる成年後見人を選任してもらいましょう。
その後、不動産をBさんとお母さんの共有名義にし、家庭裁判所に居住用不動産の処分許可の申し立て手続きを行うことで売却できる場合があります。